投稿・寄稿記事
会長通信
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今回から、日本の漢詩を一首ずつ取り上げ、鑑賞していくことにしよう。
| 霜満軍営秋気清 | 霜は軍営に満ちて秋気清し |
| 数行過雁月三更 | 数行[すうこう]の過雁[かがん] 月三更[つきさんこう] |
| 越山併得能州景 | 越山併[えつざんあわ]せ得たり 能州[のうしゅう]の景 |
| 遮莫家郷憶遠征 | 遮莫[さもあらばあれ] 家郷[かきょう]遠征を憶[おも]うを |
(訳)
霜は陣営を白く蔽[おお]い、秋の気は清[すが]すがしい。
空には雁の列が鳴き渡り、真夜中[まよなか]の月が冴えざえと照らしている。
越後[えちご]と越中[えっちゅう]の山々に、
今、能登[のと]の景色も併せて眺めることができた。
故郷にいる家族たちが、遠征のこの身を案じていようと、
それはどうでもよい。
天正5年(1577年)の9月13日(陰暦)の夜、能登の七尾[ななお]城を攻め落とし、意気揚々と詠ったもの。上杉謙信は、折からの皓々[こうこう]たる月光の下、将兵に酒を振るまいながら、この詩を作ったという。頼山陽の『日本外史』に、その様子が漢文で書かれている。
謙信には、この詩一首しか伝わらないが、この詩を見るかぎり、なかなかの作り手と見える。「遮莫」は、さもあらばあれ、と訓[よ]んで、「そんなことは、どうでもよい」の意。前の句にかけて、「それはそれとして」の意に取る人がいるが、間違いである。
今の新潟から富山、石川と領土に収めて、稚気満々、「家族どもが気遣[きづか]っていようが、どうでもよいことじゃ」と胸を張っている様子が目に浮かぶ。だが、どうでもよい、と言いながら「家郷」に言及していることが、逆に「家郷」を忘れぬ優[やさ]しさを露[あらわ]してもいる。
なお、晩秋9月の十三夜の明月(名月は和語)を賞[め]でるのは、わが国独自に創[はじ]めた風習である。法性寺[ほっしょうじ]関白藤原忠通(ふじわらただみち/1097~1164年)に、「十三夜影古[やえいいにしえ]より勝[まさ]る」の句がある。
わが国の湿気の多い気候では、晩秋九月の月の方がよりくっきりと仰がれるという発見であろう。完全より、少し足りないのを面白し、とする美意識も、日本独自のものだ。


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