投稿・寄稿記事
私のお薦めの一首・好きな漢詩
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井伏鱒二「厄除け詩集」や佐藤春夫「車塵集」が好きで、昔からよく読んだ。どちらも漢詩の訳詩が載っている。佐藤訳のトロリ官能的な訳詩と、井伏訳のほこほこした俗謡風の訳詩はそれぞれ独特の味わいがあって、甲乙つけがたいが、口語体の井伏訳の方が口に乗せやすく、覚えやすかった。
| 勧君金屈巵 | 君に勧む金屈巵[し](円いさかづき) |
| 満酌不須辞 | 満酌(なみなみと酌いでも) 辞するを(辞退しては)須[もち]いず(なりませんぞ) |
| 花発多風雨 | 花発[ひら]いて風雨多し |
| 人生足別離 | 人生別離足[た]る |
この有名な漢詩が井伏さんの筆にかかると、
コノサカヅキヲ受ケテオクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
いつかこれにならって、私も漢詩のパロデイ訳をやってみたい、と思っていた。 今から23年前、私はスポーツ総合誌「スポーツグラフィック・ナンバー」(隔週刊)の編集長をしていた。創刊2年目の「ナンバー」はアメリカの人気スポーツ週刊誌「スポーツ・イラストレイテッド」と提携していて、掲載写真は自由に使ってよかった。
「スポ・イラ」は面白いことに、年に1回、必ず「水着」特集をやった。とびきりの美女が其の年のニューファッションの水着をつけて、美しい南の海らしきところで、まばゆいほどの生き生きとうつっていた。なるほど、水着の美女もスポーツ文化なのだ。
そっくりそのままいただいて、グラビアにしても何か文字がないとどうもページが落ち着かない。さんざん考えたあげく、水着美女たちに漢詩のパロデイ訳をつけようと思いついた。紅毛碧眼の水着美女と漢詩は何の関係もない。結びつけたのは蛮勇、無謀もいいところだったが、この迷プランは編集長独断で実行した。「ミスマッチもここまでくれば、かえっておもしろい」とアートデイレクターは大いに喜んでくれた。
「年年歳歳花相似 歳歳年年“水着”不同」というタイトルで孟浩然の「春暁」など八首、パロデイ訳を試みた。創刊1周年記念の第24号(1981年4月5日)にのせた、八首のうちの一首―
| 葡萄美酒夜光杯 | 葡萄の美酒夜光の杯 |
| 欲飲琵琶馬上催 | 飲まんと欲すれば琵琶馬上に催す |
| 酔臥沙場君莫笑 | 酔うて沙場に臥す君笑う莫[なか]れ |
| 古来征戦幾人回 | 古来征戦幾人か回[かえ]る |
ワインモロックモデイスコモイイガ
スポーツカーデ酔イダシタ
女狩リニト 出カケテミタガ
無事ニ生還デキルヤラ
お恥ずかしいかぎり、でまかせの漢詩パロデイであったが、とにかく井伏訳のまねごとを果たした、という満足感が少しはあった。


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