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私のお薦めの一首・好きな漢詩
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| 蒼茫天欲暮水色淡如秋疎柳西湖岸孤霞 |
| 東叡樓蘭釭照華髪雛鳳入青眸好盡一尊 |
| 酒同銷千古愁 |
| 蒼茫トシテ天暮レント欲シ 水色淡クシテ秋ノ如シ 疎柳[ソリュウ]西湖[セイコ]ノ岸 孤霞[コカ]東叡[トウエイ]ノ樓 |
| 蘭釭[ランコウ]華髪[カハツ]ヲ照シ 雛鳳[スウホウ]青眸[セイボウ]ニ入ル |
| 好ンデ盡クセ一尊ノ酒 同ジク銷[ケ]サン千古ノ愁 |
ようやく日が暮れようとしているが、水色は淡く秋のようだ。西湖とは上野の不忍池のこと。江戸の文人はそう称していたらしい。不忍池のほとりに柳があり、遠く寛永寺のあたりに霞がたなびいている。蘭釭は蘭灯。料亭の灯が、自分の白髪を照している。前途ある若者たちが眼の前にいる。さあ今宵は一樽の酒を飲んで、お互いに無限の愁を消そうではないか。
私の旧制一高時代の恩師、阿藤伯海先生の詩である。昭和16年4月、私は満州の鞍山中学校を卒業、一高の門をくぐった。
伯海先生の漢文の授業は大変新鮮であった。背が高く痩身の先生が、羽織袴に白足袋で飄々と教室に現われ、論語を講ぜられた。
そのうち数人の仲間と、毎週1回、放課後唐詩選を講じて頂いた。実に楽しい一時であった。私共は今だに藤門の諸生と称している。
先生は昭和19年、故郷の岡山県鴨方町に帰られ、同40年亡くなれた。
次の漢詩は先生の故居を歌われたものである。
| 閲盡風霜木更強秦官冠葢至今蒼月明仙 |
| 鶴南飛後猶見蛟龍擁屋梁 |
| 風霜[フウソウ]ヲ閲[ケミ]シ盡シテ木更[サラ]ニ強ク |
| 秦官[シンカン]ノ冠葢[カンガイ]今ニ至リテ蒼[アオ]シ |
| 月明[ゲツメイ]ニ仙鶴[センカク]ノ南飛[ナンピ]セシ後 |
| 猶見ル蛟龍[カウリョウ]ノ屋梁[オクリョウ]ヲ擁スルヲ |
秦官とは秦の時代に、ある松の木に官位を授けたという故事による。冠葢とは冠と車のおおい。従ってひろがった松の枝を指す。風霜に耐えた老松、月の明るい夜、その松から南へ飛ぶ仙鶴。その後には屋根におおいかぶさるように龍が見える。
なんとも幻想的な漢詩である。
(三重野康氏は全日本漢詩連盟相談役)


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