投稿・寄稿記事
随想もろもろ
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書架から厚く重い大漢和の一冊を取り出し、机の上に置く。私の至福の時が始まる。
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私が岳堂から作詩の手ほどきを受けたのは、もう20年も前にさかのぼる。詩を作るに当って、漢和辞典が必要となった。最初は韻が出ている中辞典、それから広漢和辞典、今ではとうとう大漢和辞典を使えるようになった。
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机の上の大漢和辞典の頁を一枚一枚丁寧にめくる。今日は玉偏にしょうか。先ず親字を読む。それから熟語に移る。玉の仲間だから美しい言葉が続く。玉偏だけで、ざっと200頁、詩に使えそうな言葉を書き留める。玲瓏、玻璃、琳琅、琮琤など、併せて典故も読む。それらは、先人の詩文の中に燦然と輝いている。知識がふえると同時に想像力が掻き立てられ、段々と様ざまな状景が浮び上がってくる。私もこれらの言葉を使って詩を作ってみたい。思いつくままに、「玲瓏月蘸山湖水」とか「玻璃瓶裏緑葡萄」などと書き記す。辞典は唯、無機的に言葉が並んでいるだけだが、読み手の気持次第で違った様相をみせてくれる。まるで大きな宝石箱に迷い込んだ思いがする。
ある時、水部の項を読んでいる中に、さんずい偏だけで詩が出来ないものか、と考えた。そこで出来たのが次である。漂泊の杜甫をイメージしたものである。
| 漂泊沈淪清渭涯 | 漂泊沈淪す 清渭[せいい]の涯[ほとり] |
| 浮萍漾漾泛漣漪 | 浮萍漾漾 漣漪[れんい]に泛かぶ |
| 漫沽濁酒滞津渡 | 漫に濁酒を沽[か]いて 津渡に滞[とど]まれば |
| 涕涙滂沱瀉水湄 | 涕涙滂沱[ぼうだ]として 水湄に瀉[そそ]ぐ |
このような事は邪道だと岳堂は言うが、実に面白く、飽きることを知らない。
今、北の丸公園近辺の樹林と池をイメージして、水・木二部首を使っての詩に挑戦しているが、平仄、韻の制約でなかなか巧くいかない。
ともあれ、大漢和は私のバイブル、常に私の傍にあって私を鼓舞してくれるのである。


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